アキラのMHX日記

モンスターハンタークロスのプレイ日記です。ネットで知り合った狩り友達も多数出演中。どんな人でも、ゆっくりしていってね。

狩猟物語〜ランサーの盾〜

※これは、過去Twitterに投稿した、とあるランサーの物語を加筆修正、編集したモンスターハンターの二次創作作品である。独自設定、分かる人しか分からないネタ、及びモンハン世界の設定があります。そういうの苦手な人は
逃げろ! 勝てるわけがない!

大丈夫だよ。読んでやらんでもないって人は



@ランサーの盾@

日は西に傾いていた。男は大きな盾を右手に、そして己の勲章とも言える大槍を背に担ぎ、堂々たる出で立ちで街に帰ってきた。男が背負っているのは傭兵団鉄騎の親衛隊が持つ特別なランス、竜騎槍ゲイボルグである。強者のみ必要、の軍規を掲げ、竜討伐に赴く猛者達の誇りとも言える大槍だ。彼はガシャガシャと蒼いリオレウスの素材で作られた鎧を鳴らして一直線に帰るべき場所に向かっていた。

みんなはいつもと同じように円卓に座って彼を待っていた。ギルドからクエスト成功の報せが届くやいなや、彼が街に戻ってくるその日は宴会になるのだ。彼らは笑顔で迎えてくれた。我らの団の団長、その親友の加工屋、ナグリ族の娘、竜人商人、アイルーの料理長、看板娘、そして今日は筆頭ハンター達もいる。彼は筆頭ハンター達とひとしきり挨拶を交わすと兜を脱ぎ、ランスと盾を近くの壁に立てかけた。そして、いつものように円卓の椅子に腰を下ろす。料理長が豪華なご飯、そして酒を円卓に並べた。団長が乾杯の音頭を執り、景気良くグラスのぶつかる音が鳴った。

話題にはもちろん、今回の狩りのことが上がる。今回の狩りは順調に事が進んだ。標的はティガレックスだった。彼の最も得意とするモンスターである。凶悪な爪の猛攻を盾で見事に捌き、猛烈な突進を凌ぎ、絶対強者と恐れられるモンスターを彼は見事に討伐したのであった。特に盛り上がるような出来事は無かった。それでも彼らは団のハンターが無事に帰ってきてくれた、そのことを喜び、酒を飲み交わした。看板娘に関してはティガレックスの動きなどを事細かく訊いてくるので、やたら盛り上がってはいたが。

ある時、筆頭ルーキーが彼のランスの盾を見て

「ひゃー、それにしてもアンタの盾は傷だらけッスねぇ。過去の激闘が眼に浮かぶッス! これとか、ティガレックスの爪の跡ッスかねぇ?」

と、のたまった。それからみんなは彼のランスの盾をマジマジと見つめて、コレはどのモンスターのどの攻撃を受けた傷だ、などと話し始めた。看板娘に至っては真剣な顔で盾のスケッチをしている。男はハッと思った。武具の手入れは鎧はもちろんのこと、盾についた泥汚れなどまで綺麗に拭き取ってはいた。若いハンターにしては気を配れている方だ。武具の手入れはそのまま、狩猟の質、ひいては生存率にまで影響を及ぼすことを彼はよく理解していた。だが、盾についた傷に関しては仕方ない、むしろモンスターの猛攻を凌いできた一種の勲章のように思っていた。だが今、傷だらけの盾を改めて見て、自分の気が行き届いていないような気持ちになった。もし、これらの傷が原因で盾が壊れたりしては生命に関わる。彼は、渋々ながら加工屋に新しい盾を作ってもらうことにした。

夜、彼は加工屋の元を訪れた。そして傷だらけの盾を示して、これと全く同じ盾をもう一つ作って欲しいと告げた。加工屋はしばらく盾と彼を交互に見やってから一言、分かった、と応え、必要なゼニーと素材を提示した。またサンプルとして、彼が持っている盾を譲ってもらいたいとも言った。彼はそれを呑んだ。

翌日の昼過ぎ、彼の部屋に加工屋が真新しい盾を持ってきた。彼は礼を言うと盾を受け取った。親衛隊として認められ、盾と槍を受け取ったあの日のことを、彼は少しだけ思い出していた。加工屋は、また何かあれば遠慮なく来い、と言い残すと彼の部屋を後にした。

彼はさっそくいつもの通りに蒼いリオレウスの鎧を着込み、竜騎槍ゲイボルグを構えてみた。いつもの出で立ちだ。が、しかしどうもいつもと違う。何か違和感を感じる。首を捻っているとそこに筆頭ランサーが通りかかった。

「やあ。 」

と、挨拶を交わしたが、どうも筆頭ランサーの顔がいつもより渋い。そしておもむろに

「盾が、綺麗だな…。」

そう意味深にこぼすと、次の任務のことを少し話して大老殿の方へ行ってしまった。彼は盾をまたマジマジと見つめた。やはり、何か違う。手に馴染む馴染まないもあるが、気持ちの部分で何かが決定的に違う。やはり、盾の傷はランサーの勲章、誇りだったのだろうか。筆頭ランサーの盾は、自分の綺麗になる前の盾よりも傷だらけだった。そうこうしていると筆頭ガンナーが通りかかった。

「あら、ごきげんよう。あら? …ふふふ。はい、これで元気出して。」

そう言って筆頭ガンナーは元気ドリンコを差し出してきた。やめてくれ、見透かさないでくれ。筆頭ガンナーが去って間髪入れずに今度は筆頭リーダーがやってきて

「……気にしないことだ。」

とだけ言って、そそくさと去って行った。
やめて、見透かさないで…。
そんな彼を隣で見ていた筆頭オトモのともえは追い討ちをかけるように言った。

「ボクの師匠の筆頭ランサーは、盾の傷はランサーの誇りだ、って言って盾の傷を優しく撫でていたニャ。まー、それは人それぞれだから、気にしなくていいと思うニャ。気になるんだったら加工屋に相談してみることニャ。」

ああ、そうだった。あの盾はこの槍と同じく数々の修羅場をくぐり抜け、数々の強敵達を退けてきた大切な戦友だったのだ。その思い出が消えてしまったような気がして、どうにも落ち着かないのだ。彼はそのまま加工屋の元へ向かった。

加工屋の元へ、息を切らせて彼は走って行った。そんな彼を待っていたかのように、加工屋は何事かと聞きもせず、彼を見上げた。彼は訊かれるまでもなく、今回の事の顛末を話した。話しているうちに自分の愚かさと浅はかさに泣けてきた。加工屋は話を聞き終えると、ヤレヤレ、といった風に笑うと背後に隠していた、あの傷だらけの盾を持ち出して言った。

「こうなることは…分かっていた。お前の…盾だ。大切にするといい…。」

そう言って、傷だらけの盾を彼に返した。彼は盾にとも、手を煩わせてしまった加工屋にともつかぬ様子で、すまなかった、とこぼした。そして加工屋に作りたての盾を返して、長年共に戦った戦友をしっかりと抱きしめたのであった。

その日、彼は一人でずっと傷だらけの盾をぼんやりと眺めていた。あらゆるモンスターの猛攻から自分を守ってくれた分厚い鈍色の盾。ある時は燃え盛る業炎を遮り、ある時は鋭い爪牙を捌き、ある時は風を切る竜の尾を凌いだ。この槍と盾を手にして以来の思い出が鮮明に思い出される。今になって思えば、とても手放せる代物ではなかった。あれやこれやと回想していると筆頭オトモのともえがやってきて、また主の元に戻ってきた盾を見ると

「よかったニャ。相棒と思い出は大事にするニャ。」

と、ふんぞり返って言った。そしてふと、彼はともえの方へ視線を向けた。その向こう。物陰にやたらと人がいるのに、彼は気がついた。我らの団の団長を始め、キャラバンメンバーに加えて筆頭ハンター達、それから街の人も何人か、じっとこちらを見つめていた。彼はグラビモスの熱線よりも熱い視線をいつものように、大盾で凌いだ。