おれと老山龍砲【下】
新大陸出立の前々日。
空飛ぶ酒場のバーカウンター。
「心はすでに決まっているはずだ。
男を見せよ。」
かつてオトコのハートに火を付けた、ひときわ轟く重砲のおたけび。
その音の撃を放ったヘビィガンナーは、決断に迷うオトコにそう言った。
ただひとこと。
そのたったひとことを生んだ息が、迷うオトコの背を押す追い風となった。
射手はそれだけ言うと、ふたたびぬるくなったビールをあおり始めた。
彼も、背に巨大な砲をかついでいた。
たいせつにしている様子だった。
オトコにはそれがすぐ分かった。
使い込まれている。
使い込まれているのが一目で分かるほどだというのに、こまかなところまで手入れがされていて一種のうつくしさがにじみ出ていたのだ。
オトコは、老山龍砲へのラヴレターをしたためることに決めた。
オトコのしけた炸薬を爆発させるのには、それだけで十分だった。オトコは頭を下げると彼に背を向けた。オノレの心をそんな相手に示すのは行動でなければならない。さもなくばオトコとしての礼を欠くことになる。
オトコは何も言わず、それでも背後でビールをあおる射手につよく親指を立てた。
相手がこちらに目を向けているのか。
それは分からなかった。
だが、なんとなく。
見送ってくれているような気がしたのだ。
そしてそれは、オトコが行動で示した、ひとつめとなった。
なぜ、この射手とのエピソードがいまここで語られたのか。それは簡単だ。
この物語のハジマリに起因するからだ。
オトコがラヴレターを書くことになったという意味でのハジマリではない。もっと根源的な、オトコのガンナーとしてのハジマリのエピソードに関係するのだ。
それは。
またのちほど語られるであろう。
隠された、秘密の手記の中で。
………手紙の2枚目。
そして、それ以降、終わりまで。
まずは。
老山龍砲のスペックについて書く。
ただし武具はその地方に生息する、素材となるモンスターの特徴やその地の環境、また加工屋や技術の進歩および革新などの条件により差異が生じることも少なくない。ここで語るのは主にベルナ村周辺、龍歴院が採用しているものであることを明記しておく。
おぼえておいてほしい。
1つめ。
老山龍砲・真の攻撃力だ。
これはバレルなどを付けていない、ノーマル状態での数値が360となる。
ヘビィボウガンの平均的なものよりも若干ながら高い数字となっている。もちろんこれより高い火力を誇る銃は他にも複数そんざいしている。であるからして、絶対的なアイデンティティとはならない。しかしながら、何かひとつでは物事のすべてを推しはかれないというのは理解してもらえるだろう。
オモシロミというのは、欠点をもふくめた総合性にあるとおれは思っている。
話をつづけよう。
2つめ。
ヘビィボウガンに限らず、大火力の武器はその利点に反比例するかのようにハンディキャップを背負うことがおおい。老山龍砲のばあいなら、マイナスの会心率とリロードの遅さがそれにあたるだろう。
会心率は−10%だ。
これは見切り+1でカバーできる。この銃のおくゆかしいところだ。
以上を踏まえてプラス会心にしてエスコートするのか、それとも「ササイなことさ」と目をつむってやるのかは射手の好みにゆだねるのが良いだろう。
痛恨会心を老山龍砲で使うとなると、スキルの重さと見返りの効果が釣り合わないように思う。おれはオススメしていない。
3つめ。
撃てる弾丸はレベルの高いものばかりだ。LV2通常、LV3通常、貫通、散弾、徹甲榴弾、拡散弾とベーシックな弾丸はこのようになっている。つまりどういうことかというと、テキトウに撃っていたら弾切れを起こすということだ。
通常のクエストならば問題はないだろうが、ソロや少人数での超特、大連続などの長丁場では可能性を否定できない。
当然のことだが、適正距離での的確な射撃と弾丸えらびを心がけてほしい。
そして意外にも火炎弾、水冷弾、電撃弾の3種類に対応している。柔軟な狩りに役立つことだろう。
武器内蔵弾はLV2強装弾、竜撃弾だ。
どちらもオモシロイ弾丸なので、ここぞのタイミングを狙って使ってみてくれ。
4つめ。
老山龍砲さいだいの魅力だ。
ノーマル状態で【反動 小】だ。さらにブレがないという意外な扱いやすさだ。
ここからイササカ似た表現ながら、まったく意味のちがうことを書くから、読み間違いのないように注意しつつ、しっかりと読み進めてほしい。
おおくのヘビィボウガンは反動【中】がノーマルとなっている。これはLV2貫通弾がギリギリ無反動で撃てないラインだ。であるから、反動軽減やアクセルシャワーといったものを利用して、撃ちやすい条件をととのえる必要がある。
しかしながら、老山龍砲はノーマル状態で【反動 小】となっている。これは大きな反動を持つLV2強装弾やLV3徹甲榴弾などを無反動で撃てるものだ。
中→やや小→小
と、このようにボウガンの反動は推移する。老山龍砲は反動において平均的なものよりも、一個飛ばしのスペックをノーマル状態で有しているのである。
他のボウガンが反動軽減や狩技をやりくりしているところをすっ飛ばし、それに代わるスキルや狩技を選べるのが、この老山龍砲の魅力であると言える。
そして。
老山龍砲にはスロットがふたつ空いている。これはこの銃からのメッセージだ。
好みにドレスアップしてやってくれ。
5つめ。
防御力ボーナス+20だ。
マメなちょっとした気遣いは、モテるオトコと愛されレディの基本だな。
どうだ、イイやつだろう。
6つめ。
老山龍砲さいだいの難点だ。
この銃のリロード速度は最悪の【遅い】となっている。これとどう付き合っていくのかが問題となる。
これはLV2通常弾が最速リロードできないギリギリのラインとなっている。
もういちど言う。
ガンナーにおいて基本とも言えるLV2通常弾が最速でリロードできないのだ。貫通弾など遅すぎてリロードできたものではない。高い火力と無反動、ブレの無しに反比例する、おおきなハンディキャップと言えるだろう。
これをどう克服するか。
これとどう付き合うのか。
それは、その射手によるところだろう。
………おれは自分のことを話すのはあまり好きではない。だがラヴレターを書くと決めたからには、コイツとの一番のランデヴーもセキララに語ろうと思う。
それはどこかに隠しておいた。
なに、すぐちかくだ。
読みたければ、探してみてくれ。
それにおれがこの老山龍砲さいだいの難点をどう乗り越えたのか。祖と呼ばれる龍、獰猛化した5頭の象徴たちをこの銃と共にどうくだしたのかを記しておいた。
つまり。
おれなりの老山龍砲の使い方だ。
さいごだ。
7つめ。
しゃがみ撃ち対応弾は無い。
弾を込める、撃つ、避ける。この基礎中の基礎、ガンナーとしての地力を問われることになるだろう。
近年ではボルテージショットがイッセイをフウビし、しゃがめないこの銃は時流に取り残された。この銃が【自動装填】というスキルをまとい、強大なモンスターを打ち砕いたのも過去の光となってしまった。それはそのまま、おれ自身の過去でもある。
良き過去をもつものは時に、そのあたたかな色をした温度を思い出す。それは仕方のないことなのだ。
それを引き合いに出してきて、現在をコキオロスということは褒められた行為ではない。だが、昔を懐かしんで語るというのは、必ずしも現在への否定をはらんでいるわけではない。
そのことは、よく理解してほしい。
時代は常にさきへ進む。そのすすんださきの時代の中で、人はどんどん生まれてくる。だからこそ、おれは過去の中でおれが拾い上げてきた、おれがたいせつだと思うことを伝えるべく書いている。
これはいわば紙飛行機。
どこへ飛び、どこに下りるか分からない。
対処は、きみに一任したい。
おれは老山龍砲から、たいせつなことをおおく学んだ。この老山龍砲が引き寄せてくれたエニシという不思議な星のめぐりあわせも、いま、たいせつに思っている。
さて。
おれが老山龍砲について【説明】するのはこれで終わりだ。あとの【おれと老山龍砲】が歩んできた道のりを記したものが誰かによって見つけ出され、誰かの知るところとなるかは分からない。
もしかしたら、老山龍砲の吐き出す火炎に焼かれて灰になるかもな。
顔から火が出る。
よく言うだろう。
ここまで読んでくれてありがとう。
礼を言わせてくれ。
名もしらない、どこかの誰かさんよ。
おれは。
老山龍砲がすきだ。
………手紙は終わりのようだ。